句集・結社誌を読む31~齊藤保志『花投ぐ日』

齊藤保志句集『花投ぐ日』

著者:齊藤 保志(さいとう・ほし)

句集名:花投ぐ日(はななぐひ)

第一句集 コールサック社 2018年6月24日

 

濡れしまま海をのぼれる初日かな

 

1942年 東京生まれ、すぐ父母の郷里である福井県に疎開

2008年 サラリーマン生活を卒業後、明治大学俳句大学入学、以後沢山の方の句会に参加。

東京都杉並区在住。

 

秀句揃いの句集である。

 

残照に雪燃ゆ如き祖国かな

潮風のまづくぐりゆく茅の輪かな

海原になむあみだぶつ夏落暉

冬天に鳶の呉れたる二重丸

蝉生れて七日ほどなる大宇宙

江ノ電を大きく揺らす日焼の子

大鷹の闘ふ前はしづかなり

我なりにまつすぐ来たとかたつむり

虎が雨父の眠りし島を見ず

満月のひかりの音か五十鈴川

終戦日海の底よりあまたの眼

父は吾を肩車して終戦日

冬銀河被りて佐渡の深眠り

軽鳧の子の眼ひらきて母追へり

熱燗の魂のすきまを落ちゆけり

九頭竜川のはるけき蛇行風光る

 

一集を貫いている主情は、幼児期を過ごした福井という産土の讃歌、フィリピンで戦死した父、ともに生きた肉親へのせつせつたる思いであろう。

一句の呼吸がちまちまとしておらず、深く、大きい。

それが一句の深さ、大きさへとつながっている。

すべてが自然詠であり、人生詠なのである。

つまり、詠っている対象は「自然」であっても、その奥底には、必ず作者の複雑な感情が沈殿している。

 

実は、この作者とは句座をともにする仲間である。

その実力にはつねづね舌を巻いていた。

この一集には、その実力が遺憾なく発揮されている。

句友のよしみで、あえて言えば、初期作品はややオーソドックスに終始していて面白みがない。

この部分は厳選したほうがさらによかったと思う。

読み進むほどに詩的迫力のある作品、或いは詩的展開の大きい作品が満ちている。

それにしても〈軽鳧の子の〉に見られる写生の確かさ、〈終戦日〉の句に見る詩的観念の構築力、〈満月の〉に見られる清冽なロマンなどなど…どれも非の打ちどころのない、豊かな力量を感じる。

ぜひ読んでいただきたい句集である。

 

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