第31回村上鬼城賞受賞作品~「聖樹」涼野海音

「聖樹」  涼野海音

成人の日の靴墨のひかりかな

恋猫と手鏡ほどの水たまり

かげろふへ短き橋を渡りけり

少年の額あかるし鳥の恋

永き日の海のにほひの石ひとつ

海みゆる珈琲店のヒヤシンス

春惜しむ楽譜かかへてゐたる子と

五月来る森の中なる神学部

誰もゐぬ港に虹の立ちにけり

終点の駅は小さし雲の峰

アメリカの地図を開いて端居かな

ただ遥かなり先生と夏の海

夕顔のかたはらの子に名をききし

どの草もよき名をもちて秋に入る

マラソンのゴールに大樹初嵐

草市のはじめつめたき風の中

長生きのにはとりに水澄みにけり

橋姫の話しばらく月の客

月さして亡き人の杖くもりなき

ジーンズの膝にさす日や小鳥来る

山々は高さ競はず雁渡し

街の灯のとほき団栗拾ひけり

うどん屋の奥のひと間や初時雨

極月や子豚重なり眠りたる

陵の森深く入る冬帽子

冬帝へ開く植物園の地図

妻もなき子もなき家の聖樹かな

地図になき道に狐火消えにけり

夭折は子規のみならず雪蛍

どの島も灯りて年の逝きにけり

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