「葛の花」は中野貴美さん(青海波同人)の第2句集である。
句集は名詞止めの一元俳句を主とし、古語を効率よく使うなど本格的で安定感がある。
七草やはるけきものに母のこゑ
白扇や父の匂ひの古語辞典
父母の句を挙げたが、はるかになった母の声を靄のような七草がゆと取り合わせて慕情を醸し出し、父を古語辞典の匂いと言い切ってかくしゃくしたる父像を浮かび上がらせる。
二句一章名詞止めの形式が父母の誠実さを表出する。
著者の優しさや古語への造詣の原点が見える。
能面の口中くらき春の燭
写実でありながらどこか心象的なのは、口中の闇から能面の美しさを発見したところにある。
著者の耽美への憧れだろうか。
うれしいときうれしいやうにさくらさく
珍しく形容詞を重ね、心を解き放った句である。
時にはこんな遊び心のある句も楽しくていい。
徳島新聞2019年12月21日(土)「句集を読む」
執筆:上窪青樹(「風嶺」主宰)