加藤房子句集『須臾の夢』
平成30年6月 俳句アトラス刊
夜空をイメージする濃紺に、夢を表現しているかのように浮かぶ水玉、装丁、装画の美しさに魅了される。
「須臾」、とは暫時少しの間、しばらくの間の古語で水玉はそれぞれの夢というようにとらえた。
作者は、薬剤師の仕事を続け母の介護、夫の介護と見送りの中で、自分自身の病気という状況下で鋭い観察による詩情豊かな美しい句が詠まれている。
晦日蕎麦過去も未来も須臾の夢
落されし生命鮮やか桃摘花
行間に青き残夢や遠花火
蓮根の糸を頼りの余命編む
落日の遺影に真紅の薔薇を百
作者は生きた証として娘や息子に残すべくこの句集を纏めたと書いておられる。
今後も鋭敏な詩性と抒情ある句を楽しみに「須臾の夢」のつづきを期待している。
楽しとは生涯未完亀鳴けり
―俳句とエッセイ「朴の花」第104号~新刊俳書紹介 執筆・朝久野みち子