松本余一句集『ふたつの部屋』が毎日新聞で紹介されました!

モスバーガーは老人も好き桃の花   松本 余一

 

モスバーガーという店が老人大歓迎なのだろうか。

それともモスバーガーのメニューのあれこれには老人のファンがついている、ということか。

両様に読めるところが句集「ふたつの部屋」(俳句アトラス)にあるこの句の楽しさだろう。

作者は東京都小金井市に住む。

ちなみに、私はモスバーガーの朝食セット「朝モス」のファンである。

 

―「毎日新聞」2022年3月2日 季語刻々 執筆・坪内稔典―

 

 

杉原青二句集『ヒヤシンス』が「山彦」11月号(2021年)で紹介されました!

 

俳句を始めて10年、次のステップのために刊行した。

 

ラフランス自由はどこかいびつなる

蛇泳ぐ川面にエノラ・ゲイの影

駅ビルのエアロビクスや三島の忌

 

問題意識旺盛な方である。

作者にとっての昭和とは「蛇泳ぐ」や「駅ビル」の句のように、消えることのなく脳裏に記憶されているのである。

批評の芯は固い。

 

三代のふぐりを見たる扇風機

満天に星を吐きたる大枯木

するすると紐下りてくる朧の夜

包丁を入れても笑ふ鯰かな

時代祭うしろ姿に足がない

 

二、三、四句目は何れも季語が象徴的に詠まれているから季語を越えての風景が見えて来る。

また、「三代の」「包丁を」「時代祭」の句は実に愉快。

こうした背景には中村猛虎氏が代表の「亜流里」の自由闊さゆえではなかろうか。

(令和3年9月9日、俳句アトラス、2,500円税込)

 

-「山彦」11月号(2021年)「受贈俳書紹介」 執筆・河村正浩-

 

 

大木雪香句集『光の靴』が「山彦」11月号(2021年)で紹介されました!

「海光」(林誠司代表)編集長の第一句集。

2003年より俳句を始め、2016年「海光」へ入会する。

 

薫風やテトラポッドの半乾き

滴りの深呼吸してをりにけり

ストローの吸ひ上げてゐる薄暑かな

水湧いてまだ水音のなかりけり

握られて鯵の光の厚みかな

足跡のそこだけ深き清水かな

膨らんで大きく縮む鳩小春

眠る山起こさぬやうに竹箒

 

2016年まで無所属という作者だが、一読して感性の良さが際立つ。

しかもごく自然な中で選び抜かれた言葉である。

中でも「水湧いて「握られて」「足跡の」の句は印象的である。

また、「滴りの」「ストローの」は感覚的な把握だが、実にうまく言い得ており、リズミカルな快さも印象的。

 

(令和3年8月28日、俳句アトラス、2,400円税込)

 

-「山彦」11月号(2021年)「受贈俳書紹介」 執筆・河村正浩-

 

 

西岡みきを句集『秋高し』が「山彦」11月号(2021年)で紹介されました!

「雲の峰」同人の第一句集。

釜山生まれだが、昭和19年、山口県熊毛郡周防国民学校、昭和40年、山口大学医学部大学院修了とある。

高松市在住。

平成18年、「雲の峰」に入会し、朝妻力に師事。

 

逆さまに雲の垂れゐる日暮時

ゆつくりと屋島を昇る朝の霧

風鈴を吊るし山風呼びにけり

トルコ産の松茸尽し子らも来て

妻と酌むバレンタインの日のワイン

母の忌や厨の蠅をそつと追ふ

犬連れて風と遊ぶ子秋高し

行く春の札所の辻に竹箒

 

実に平易で作者の姿や表情が浮かぶ。

日常の出来事や眼にした風景をそのまま叙したような句だが、それが俳句になるのは作者の人間性、向日性、気負いのなさであろう。

主宰の序文でも「徹頭徹尾真摯である」と述べられている。

この一書は風土と一体化した作者の日々の哀歓の諷詠である。

(令和3年7月15日 俳句アトラス 2,500円(税込))

 

-「山彦」11月号(2021年)「受贈俳書紹介」 執筆・河村正浩)-

 

渡辺誠一郎展 俳句と写真 開催

-句集『赫赫』+紀行集『俳句旅枕 みちの奥へ』より

 

北上川(きたがみ)へぶ厚く雪の濡れかかる   誠一郎

 

日時:2021年11月9日(火)~21日(日)

   11時半~17時半  月曜定休

会場:ビルドスペース 入場無料

   塩竃市港町2-3-11 080-3198-4818

   www.birdoflugas.com

            JR本塩釜駅下車アクアゲート口より徒歩5分

 

〈渡辺誠一郎〉(わたなべ・せいいちろう)

 1950年塩竃市生まれ。

 俳人・佐藤鬼房に師事。「小熊座」前編集長

 句集『地祇』『赫赫』など。

『俳句旅枕 みちの奥へ』『佐藤鬼房の百句』

 第14回俳句四季大賞、第70回現代俳句協会賞

 朝日新聞社「みちのく俳壇」選者

 

 

杉原青二句集『ヒヤシンス』が毎日新聞で紹介されました!

ラフランス自由はどこかいびつなる    杉原 青二

 

句集『ヒヤシンス』(俳句アトラス)から。作者は兵庫県たつの市に住む。近年、香港のニュース、コロナ対策にかかわるアメリカの賛否の対立などを思うと、「自由はどこかいびつなる」を実感する。

ちなみに、洋梨のラフランスはフランス人の発見した品種だが、当のフランスではほとんど作られていないという。

ラフランスは日本の梨だ。

―「毎日新聞」2021年10月21日 季語刻々 執筆・坪内稔典―

 

 

西岡みきを句集『秋高し』が四國新聞で紹介されました!

俳句結社「雲の峰」会員で、香川大医学部名誉教授の西岡みきをさん=高松市=が、2006年から21年までに詠んだ304句を収載。

自身初の句集で、同結社主宰の朝妻力さんによる解説も収められている。

西岡さんは、定年退官後、06年3月に同結社に入会。

以来、俳句を本格的に学び、俳誌や句会へ積極的に投句している。

句集は、

春風に胸ふくらませ鳩鳴けり

ゆつくりと屋島を昇る朝の霧

犬連れて風と遊ぶ子秋高し

など、何気ない日常を詠んだ句を軸に、五つの章を立てている。

朝妻さんは「対象を見つめるにつけても、詩情を探るにつけても、表現するにつけても一貫して真摯さを失わない。六十の手習いで始められた俳句が、ここに大きく実を結んだ感がある」と評sしている。

(俳句アトラス 2,500円)

 

 

―四國新聞2021年9月19日 「新刊紹介」―

 

松本美佐子句集『三楽章』が京都新聞に紹介されました!

 

 

『三楽章』(俳句アトラス)は、松本美佐子の第一句集。

水に透く石寒中の五十鈴川

あともどりしたくて甲斐の桃の花

ぞの土地の決定的な〈らしさ〉の、印象的な作品化だ。

 

花冷の鍛冶屋に青き火の熾る

枯葉打つ雨粒ひとつづつ聞こゆ

家々の垣に赤き実クリスマス

 

「火」「雨粒」「実」。

現実をはみだす妖しいイメージへと昇華される。

「花冷」「枯葉」「クリスマス」との重奏が、さらに鮮やか。

 

沢瀉の小花を残し水昏るる

新豆腐丹波の水に切り放ち

さまざまな鯉の彩なす水の秋

 

三様の静謐な「水」を背景に、「残し」「切り放ち」「彩なす」の精妙な動きが、溌剌とした生命感を立ち現わす。

麻酔覚めやや傾きて眠る山

天地と人情との幽遠な交感が、言葉の個性的な組み合せによって顕現している。

1944年山口県生まれ。大阪府豊中市在住。「鳰の子」同人。

 

―京都新聞2021年8月17日 「詩歌の本棚」 執筆・彌榮 浩樹―

 

 

谷原恵理子句集『冬の舟』が神戸新聞で紹介されました!

 

谷原恵理子句集「冬の舟」

青森県に生まれ、現在芦屋市に住む著者は、2009年俳句に出会い、山田弘子に師事。

現在は姫路の超結社「亜流里」に所属。

最初、俳句の基本は「円虹」の故山田弘子に学んだ。

「俳句を始めた頃は俳句を詠むということが特別な感じがしてずいぶん構えていました」という。

今では「起きてごはんを作り、掃除をして散歩して、俳句を作り、夜には眠る」というごく自然なこととなっていると「あとがき」に。

つまり俳句を詠むのが特別に構えることではなくなっているのだ。

  桃食みて季節を一つ越す力

桃の実が出回るのは、夏バテの来る頃。

桃を食べると秋までは気力が持てて夏を乗り切れるだろう、と。

桃は昔、毛桃と呼ばれたが、近年品種改良によって現在の白桃、水蜜桃のように瑞々しい果物になった。

桃には霊力があるとも古代から考えられていたようで、古事記にもその記述がある。

その霊力で夏を乗り切るのである。

「季節を一つ」に、取りあえず今の暑さを乗り切りたいという切実な気持ちにユーモアがよく出ている。

  山羊白き子を生みにけり寒の朝

この句集中一番印象に残った句。

山羊の繁殖季節は、品種や飼養されている地域の緯度などにより違いがみられる。

多くは秋口に繁殖期を迎え、春に子を産むが、この山羊は寒の朝に産んだ。

生まれると同時に子ヤギは湯気に包まれていたのであろう、白に感動が表れているという印象を持った。

白というのは色でもあるが、ことごとく純粋であるという意味もあるのだろう。

白山羊の子が白いのは当たり前のことであるが、あえて重ねて形容することで読者にも強い印象をもたらす。

  吉祥の帯を仕舞へば春の風邪

春の風邪をひいた。

その原因はきっと吉祥の帯を解いて仕舞ったからだわ、という機知も働く。

  石段の青きしづくや蜥蜴跳ぶ

  野分中芸妓は高く褄を取り

  もう戻れないかもしれぬ蛍狩

  舟未だ出ぬ宇治川の残暑かな

など魅力的な句が多くあり、この人の才能の豊かさと豊潤に満ちた句集。

俳句アトラス刊。

 

―「神戸新聞」2021年6月22日 「句集」 執筆・山田六甲ー