落合美佐子句集『野菊晴』(俳句アトラス)
「浮野」(落合水尾主宰)同人。
句集『花菜』『野みち』に続く第三句集。
平成7年から平成30年までの句を収録。
句集名は次句、
母ふたり健やかに老い野菊晴
主宰は帯文で「いつもそばに俳句のあった生活を、明るく伸びやかに諷詠。平凡の中に詩を見出し、見える俳句を親しく確立している」と賛。
飛花落花隠れやうなき主峰あり
白梅や痛みを解きて逝き給ふ
膝掛やすぐ眠くなる年を取る
―「耕」33周年記念号 「句集紹介」(執筆・和出 昇)―
昭和2年千葉県生まれ、同57年「蘭」入会、平成5年「蘭」同人。
名誉主宰・松浦加古氏の序によれば、作者は、野澤節子健在の頃の「蘭」に入会した最古参の一人。
現在91歳。
この句集のメインテーマは、
(1)生涯の文芸の師と仰ぐ野澤節子への格別の思慕
(2)作者の住む成田市名古屋の風景、とりわけ作者の自宅の前にある小御門神社も美しい聖域
(3)夫との生活、更に夫亡きあとの思慕
の三つである。
句集名「東路」、作者の先祖がその創建に携わった「小御門神社」のご祭神・太政大臣藤原師賢の歌、
東路やとこよの外に旅寝して憂き身はさそな思ふ行く末
に因む。
句集帯掲載句より十句
利根川を去るきつかけの嚏かな
白鳥引く藍の深きを湖に置き
われに添ふ師の影さくら咲きてより
亡き夫に謝すことばかり天の川
障子貼りこの明るさに一人棲む
待つといふ心の張りや牡丹の芽
影もまた匂うてをりぬ梅林
身に入むやおはすごと置く男靴
二度訣かるる思ひに捨つる白絣
星月夜あふぎ逢ひたき人あまた
(俳句アトラス 2,315円)
―「海」2019年9月号 「新刊句集紹介」(執筆・後藤勝久)―
家族とも裸族ともなり冷奴 辻村 麻乃
働かぬ蟻ゐて駅前喫茶店
嫉妬てふ限りなきものサングラス
辻村麻乃句集『るん』 俳句アトラス刊
第二句集。「篠」主宰。
『るん』はルンという言葉の概念に依る。
詩人の岡田隆彦、俳人の岡田史乃の間に生まれ、新しい風を吹いても良いのではと思うようになったと。
発想がどこへ跳んでゆくか予測出来ない作家である。
一句目、クーラーが普及する以前の典型的な日本の夏。
夕焼空、豆腐屋のラッパ、蚊取線香。
ステテコやアッパパ姿の家族で囲む夕餉。
冷奴の涼しさと、たっぷりの会話もこれ以上なきご馳走。
「家族」「裸族」のリズムが楽しい一句。
二句目、茹だるような真夏の昼間。
冷房の効いた喫茶店で束の間の休息を取るサラリーマン諸氏。
個々の集まりが大きな群となり、やがて堅固な社会を作り上げてゆく過程の中、次のステップへのエネルギーを蓄える貴重な時間。
身近な蟻に譬え、少々の揶揄を込めた励ましの句と受け取れる。
三句目、ハートのある生物にとって逃れられないネガティブな感情。
善悪、教養の有無に関係なく、軽いものから根深いものまで、置かれた立場により千差万別。
忌わしいイジメも嫉妬が発端という。
回避は困難だが、まず他との比較をやめ、努めてやるべき事に集中する。
猶且つ、煩悩に苛まれるなら、嫉妬の炎に燃える眼を洒落たシャネルやレイバンのサングラスに閉じ込め、真夏の太陽に身を焦がせよう。
―「枻」令和元年9月号「現代俳句を読む」(執筆・高成田満里子)―
烏瓜不器用にして装へる 福島たけし 句集『寒オリオン』
ふるまひは地酒地魚浦祭 新谷壯夫 句集『山 懐』
―「沖」2019年9月号 「沖の沖」(能村研三・抽出)―
人声をただ音と聞き秋の旅 福島たけし
(ひとごえを ただおとときき あきのたび)
旅とは何かを通過すること。
人々の話し声をただ音として聞きながら、その街を通り過ぎてゆく。
人間のおしゃべりは音と意味でできているが、意味がわからなければ音のみ。
音楽や小鳥のさえずりと同じ。
句集『寒オリオン』から。
‐讀賣新聞令和元年8月20日(火) 長谷川 櫂「四季」―
猫の尾のふれて弾ける鳳仙花 新谷 壯夫
(ねこのおの ふれてはじける ほうせんか)
鳳仙花の実は成熟すると勢いよく割れて内包された種が四散する。
この仕組みはスミレなどにも見られ、広範囲に増殖するための構造である。
割れた皮がくるりと捲(ま)き上がることで指で弾いた状態となり、1メートル先まで飛ぶこともある。
無遠慮な猫の尾が触れればその衝撃で弾け、猫の体に付いてさらに遠くまで運ばれるのだから、植物の巧みな手段にあらためて感心する。「鳰の子」同人。
―愛媛新聞令和元年8月20日(火) 土肥あき子「季のうた」―
〇句集『櫛買ひに』を読む 石井 冴
〇『櫛買ひに』渡辺美保第一句集より 玉記 玉
〇『櫛買ひに』~平明な中の深い思い 安田中彦
〇渡邉美保句集『櫛買ひに』一句随想
西田唯士 柴田 亨 谷川すみれ 森谷一成 三好つや子 中嶋飛鳥
〇『櫛買ひに』自選十五句 渡邉美保
〇『櫛買ひに』解説 岡田耕治
第15回日本詩歌句随筆評論大賞
俳句部門特別賞 辻村麻乃句集『るん』
【贈賞式】
2019年9月22日(日) 13時
北とぴあ 14階 スカイホール 東京都北区王子1-11-1
東京都中央区銀座 STAGE銀座
菊地悠太句集『BARの椅子』の表紙絵を担当した、イラストレーター・小林ひろみ氏の個展が開催された。
【小林ひろみ☆絵語り絵の世界-大暑・夏】
動物や母と子の愛らしい姿を描いたオイルパステル画作品展
〈日 時〉2019年7月29日(月)~8月3日(土)
12:00~20:00 最終日11:00~16:00
〈会 場〉東京都中央区銀座8-5 銀座ナイン1号館1F 電話03-3572-6495
JR新橋駅銀座口徒歩2分 東京メトロ新橋駅徒歩1分
会場には菊地悠太句集『BARの椅子』や表紙絵となったイラストが飾られていた。