別れても別れても三椏の花 松本 余一
枝が三つに分かれる、だからミツマタというのだとか。
春になると、分かれた枝の先に黄色い鞠のような花を咲かせる。
ミツマタの木全体も大きな黄色い鞠のように見える。
植物の末広がりの増殖。
句集『ふたつの部屋』から。
―「讀賣新聞」2022年3月22日 四季 執筆・長谷川 櫂-
別れても別れても三椏の花 松本 余一
枝が三つに分かれる、だからミツマタというのだとか。
春になると、分かれた枝の先に黄色い鞠のような花を咲かせる。
ミツマタの木全体も大きな黄色い鞠のように見える。
植物の末広がりの増殖。
句集『ふたつの部屋』から。
―「讀賣新聞」2022年3月22日 四季 執筆・長谷川 櫂-
第33回 日本伝統俳句協会賞 「はつけよい」鈴木風虎(すずき・ふうこ)
昭和24年生まれ、東京都文京区在住。「ホトトギス」。
第33回 日本伝統俳句協会新人賞 「花恋し」宮内千早(みやうち・ちはや)
昭和47年生まれ、群馬県高崎市在住。
佳作1席 「神戸三十景」藤井啓子
佳作2席 「北大農場」音羽紅子
佳作3席 「一、二、三、四、五」多々羅初美
佳作4席 「看護師として」多々羅紀子
佳作5席 「浅草に四季」藤森荘吉
※応募総数 143編
※未発表作品30句
※新人賞は50歳以下
※選考委員 岩岡中正、今井千鶴子、大輪靖宏、木村享史、辻 桃子、安原 葉
◎授賞式 6月26日(日)15時~ 都市センターホテル(東京都千代田区平河町)
モスバーガーは老人も好き桃の花 松本 余一
モスバーガーという店が老人大歓迎なのだろうか。
それともモスバーガーのメニューのあれこれには老人のファンがついている、ということか。
両様に読めるところが句集「ふたつの部屋」(俳句アトラス)にあるこの句の楽しさだろう。
作者は東京都小金井市に住む。
ちなみに、私はモスバーガーの朝食セット「朝モス」のファンである。
―「毎日新聞」2022年3月2日 季語刻々 執筆・坪内稔典―
俳句を始めて10年、次のステップのために刊行した。
ラフランス自由はどこかいびつなる
蛇泳ぐ川面にエノラ・ゲイの影
駅ビルのエアロビクスや三島の忌
問題意識旺盛な方である。
作者にとっての昭和とは「蛇泳ぐ」や「駅ビル」の句のように、消えることのなく脳裏に記憶されているのである。
批評の芯は固い。
三代のふぐりを見たる扇風機
満天に星を吐きたる大枯木
するすると紐下りてくる朧の夜
包丁を入れても笑ふ鯰かな
時代祭うしろ姿に足がない
二、三、四句目は何れも季語が象徴的に詠まれているから季語を越えての風景が見えて来る。
また、「三代の」「包丁を」「時代祭」の句は実に愉快。
こうした背景には中村猛虎氏が代表の「亜流里」の自由闊さゆえではなかろうか。
(令和3年9月9日、俳句アトラス、2,500円税込)
-「山彦」11月号(2021年)「受贈俳書紹介」 執筆・河村正浩-
「海光」(林誠司代表)編集長の第一句集。
2003年より俳句を始め、2016年「海光」へ入会する。
薫風やテトラポッドの半乾き
滴りの深呼吸してをりにけり
ストローの吸ひ上げてゐる薄暑かな
水湧いてまだ水音のなかりけり
握られて鯵の光の厚みかな
足跡のそこだけ深き清水かな
膨らんで大きく縮む鳩小春
眠る山起こさぬやうに竹箒
2016年まで無所属という作者だが、一読して感性の良さが際立つ。
しかもごく自然な中で選び抜かれた言葉である。
中でも「水湧いて「握られて」「足跡の」の句は印象的である。
また、「滴りの」「ストローの」は感覚的な把握だが、実にうまく言い得ており、リズミカルな快さも印象的。
(令和3年8月28日、俳句アトラス、2,400円税込)
-「山彦」11月号(2021年)「受贈俳書紹介」 執筆・河村正浩-
「雲の峰」同人の第一句集。
釜山生まれだが、昭和19年、山口県熊毛郡周防国民学校、昭和40年、山口大学医学部大学院修了とある。
高松市在住。
平成18年、「雲の峰」に入会し、朝妻力に師事。
逆さまに雲の垂れゐる日暮時
ゆつくりと屋島を昇る朝の霧
風鈴を吊るし山風呼びにけり
トルコ産の松茸尽し子らも来て
妻と酌むバレンタインの日のワイン
母の忌や厨の蠅をそつと追ふ
犬連れて風と遊ぶ子秋高し
行く春の札所の辻に竹箒
実に平易で作者の姿や表情が浮かぶ。
日常の出来事や眼にした風景をそのまま叙したような句だが、それが俳句になるのは作者の人間性、向日性、気負いのなさであろう。
主宰の序文でも「徹頭徹尾真摯である」と述べられている。
この一書は風土と一体化した作者の日々の哀歓の諷詠である。
(令和3年7月15日 俳句アトラス 2,500円(税込))
-「山彦」11月号(2021年)「受贈俳書紹介」 執筆・河村正浩)-
-句集『赫赫』+紀行集『俳句旅枕 みちの奥へ』より
北上川(きたがみ)へぶ厚く雪の濡れかかる 誠一郎
日時:2021年11月9日(火)~21日(日)
11時半~17時半 月曜定休
会場:ビルドスペース 入場無料
塩竃市港町2-3-11 080-3198-4818
www.birdoflugas.com
JR本塩釜駅下車アクアゲート口より徒歩5分
〈渡辺誠一郎〉(わたなべ・せいいちろう)
1950年塩竃市生まれ。
俳人・佐藤鬼房に師事。「小熊座」前編集長
句集『地祇』『赫赫』など。
『俳句旅枕 みちの奥へ』『佐藤鬼房の百句』
第14回俳句四季大賞、第70回現代俳句協会賞
朝日新聞社「みちのく俳壇」選者
ラフランス自由はどこかいびつなる 杉原 青二
句集『ヒヤシンス』(俳句アトラス)から。作者は兵庫県たつの市に住む。近年、香港のニュース、コロナ対策にかかわるアメリカの賛否の対立などを思うと、「自由はどこかいびつなる」を実感する。
ちなみに、洋梨のラフランスはフランス人の発見した品種だが、当のフランスではほとんど作られていないという。
ラフランスは日本の梨だ。
―「毎日新聞」2021年10月21日 季語刻々 執筆・坪内稔典―
俳句結社「雲の峰」会員で、香川大医学部名誉教授の西岡みきをさん=高松市=が、2006年から21年までに詠んだ304句を収載。
自身初の句集で、同結社主宰の朝妻力さんによる解説も収められている。
西岡さんは、定年退官後、06年3月に同結社に入会。
以来、俳句を本格的に学び、俳誌や句会へ積極的に投句している。
句集は、
春風に胸ふくらませ鳩鳴けり
ゆつくりと屋島を昇る朝の霧
犬連れて風と遊ぶ子秋高し
など、何気ない日常を詠んだ句を軸に、五つの章を立てている。
朝妻さんは「対象を見つめるにつけても、詩情を探るにつけても、表現するにつけても一貫して真摯さを失わない。六十の手習いで始められた俳句が、ここに大きく実を結んだ感がある」と評sしている。
(俳句アトラス 2,500円)
―四國新聞2021年9月19日 「新刊紹介」―
雨粒に広き花びら花菖蒲 松本 美佐子『三楽章』
「朴の花」第113号~「注目の句集より」 抽出・長島衣伊子