今週の一句~五月雨(さみだれ) 芥川龍之介

さみだれや青柴積める軒の下   芥川龍之介

(さみだれや あおしば つめる のきのした)

 

今、人気の「柴犬」など、「柴」という言葉は日常よく見かける。

昔話にも、

おじいさんは山へ柴刈に…

という言葉が多く出てくる。

「柴」というのは、私たちにとって身近な言葉だが、そもそも「柴」とはなんだろう。

私は以前まで、「杉」や「ヒノキ」のような樹木の一種かと思っていた。

「柴」とは、

山野に生える、小さな雑木

のこと。

「雑木」は文字通り、

雑多な樹木

のことである。

さらにいえば、

薪にしたり、垣根や壁、つまり生活に仕える樹木

とも言える。

「青柴」は、

青い葉っぱをつけた柴

のことをいう。

夏だからこそ「青柴」なのだろう。

掲句。

軒下に積まれた「青柴」。

いづれ薪などに使用されるのだろう。

束ねられて軒下に置かれている。

「五月雨」は「梅雨の雨」のこと。

いつまでもしとしとと降り続いている。

きっと、今日あたりは家人も山へ出ず、家に籠っているだろう。

青柴は濡れないように軒下に置かれているが、今にも濡れてしまいそうである。

山里の梅雨の風景と、そこに暮らす人の質素な生活が描かれている。

眼目は「青柴」とくに「青」。

これを、

五月雨や柴木を積める軒の下

としたら、どうだろう。

たちまち、色彩が失われてしまう。

五月雨や青柴積める軒の下

には、墨絵のような風景の中、唯一、青柴の「青」が生命の「息吹」を出している。

そこが巧み。

初心者の方に、ぜひ言いたいのは、「句の色彩」がとても重要だ、ということ。

夏草や兵どもが夢の跡   松尾芭蕉

この句は「夏草」の「緑」が句を鮮明にさせている。

この句は遥か(芭蕉の訪れた時代からすれば…)400年以上前の歴史に思いを馳せている。

こういう句は、ややもすれば一句全体が「茫洋」となってしまうものだが、「夏草」が「具象」を出し、さらに「色彩」を生み出している。

「夏草」は草の中でもっとも「生命力」があり、「色彩」も鮮やかである。

それが、一句をしっかりとしたものにしている。

龍之介の句も、「青」という一語が一句を、ある意味瑞々しくしている。

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