あたたかき十一月もすみにけり 中村草田男(なかむら・くさたお)
(あたたかき じゅういちがつも すみにけり)
「十一月」は冬の季語、「あたたかし」も冬の季語。
こういう句を「季重なり」(きがさなり)と言う。
一句の中に「季語」が複数入っているのである。
一般的に、「季重なり」はよくない、避けるべきと言われる。
しかし、
目には青葉山ほととぎす初鰹 山口素堂
は「青葉」「ほととぎす」「初鰹」と夏の季語が三つも入っている「名句」である。
私の愛誦句、
身にしみて大根からし秋の風 松尾芭蕉
も「身に入む」(秋)「大根」(冬)「秋の風」(秋)と季語が三つもある。
松尾芭蕉も高浜虚子も、季重なりはたいした問題ではない、と述べている。
この句は、「あたたかき」がいい。
もう少し言うと「過去形」の表現がいい。
あたたかかった
という表現に、作者の心安らかな思いが感じられる。
冬の暖かな一日を「小春」「小春日和」と表現するが、この「小春」は十一月だけに使うべきで「小春月」とは十一月のことである。
それゆえに説得力がある。
あたたかき十二月
では、リズムももちろんよくないが「共感」という点で、ダメなのである。