春風の吹かれ心地や温泉の戻り 夏目漱石
(はるかぜの ふかれごこちや ゆのもどり)
この句を見ると、いつも「坊っちゃん」の一節を思い出す。
何を見ても東京の足元にも及ばないが、温泉だけは立派なものだ。
東京から、数学教師として松山へ赴任した「坊っちゃん」は道後温泉をすっかり気に入り、毎日のように温泉へ通う。
その温泉帰りの坊っちゃんの心持を詠んだようである。
この句は「吹かれ心地」という言葉がいい。
あとは「はるかぜ」「温泉の戻り」と、普通…というかありふれた言葉である。
「吹かれ心地」こそがこの句に命を吹き込んでいる。
「吹かれ心地」とはどんな心地だろう、と思うが、なんとなく、誰もが想像出来る。
きっと、そこがいいのだ。