水仙やすでに東風吹く波がしら 水原 秋櫻子
(すいせんや すでにこちふく なみがしら)
「東風」というと菅原道真の和歌が思い浮かぶ。
東風吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな 『拾遺和歌集』
(こちふかば においおこせよ うめのはな あるじなしとて はるをわするな)
「東風」が吹き出したら、梅の花よ、開きなさい…と言っている。
「東風」は春を告げる風で、春の季語でもある。
正東風(まごち)
強東風(つよごち)
朝東風(あさごち)
夕東風(ゆうごち)
雲雀東風(ひばりこち)
鰆東風(さわらごち)
梅東風(うめごち)
桜東風(さくらごち)
などがある。
水仙は冬の季語だが、その清楚で白い花姿は「春遠からず」の印象を与える。
また、水仙はどこにでも咲くが、伊豆下田や越前など海辺に咲く印象が強い。
海のそばで群れ咲く水仙…、その沖には春を告げる風が吹いている。
掲句は「波」ではなく、「波がしら」が上手い。
水仙の白、海の青、そして波がしらの白が鮮烈である。
水仙の白と波がしらの白が呼び合っているかのようだ。
一句に、春の胎動が満ち溢れている。