馬をさへながむる雪の朝かな 松尾芭蕉
(うまおさえ ながむるゆきの あしたかな)
紀行文「野ざらし紀行」の中の一句。
旅人をみる
と「前書き」がある。
「野ざらし紀行」は芭蕉が「旅に生きる」と決めて最初の「旅」で、旅立ちに際し、
野ざらしをこころに風のしむ身かな
と、悲愴な思いを述べている。
ただ、名古屋あたりに着くと、だいぶ心が落ち着いてきている感がある。
名古屋には、芭蕉の門弟がたくさんいた。
芭蕉と名古屋の弟子たちは、「猿蓑」に先駆けて、「冬の日」という俳諧集を編纂した。
「おくのほそ道」のあと編纂された「猿蓑」は、蕉門俳諧の金字塔であるが、「冬の日」こそが蕉風俳諧確立の記念すべき俳諧集という評価がある。
いずれにしても、名古屋は芭蕉にとって、蕉門俳諧の重要な拠点のであり、心休まる地であっただろう。
掲句はその近辺での作。
掲句はまず「写生」が丁寧である。
雪が降ったから…かどうかはわからないが、馬がにわかにそわそわとしだした。
旅人はそれをなだめつつ、馬上から雪を眺めている…、そういう風景である。
「旅びとを見る」
とわざわざ前書きに書いているくらいだから、心に残る風景だったのだろう。
時代劇のワンシーンを見ているかのような、静謐で、趣の深い一句である。