名ある星春星としてみなうるむ 山口誓子(やまぐち・せいし)
(なあるほし しゅんせいとして みなうるむ)
山口誓子というと即物的抒情、硬質な抒情というイメージがある。
かりかりと蟷螂蜂の皃を食む
(かりかりと とうろう はちの かおをはむ)
夏草に汽罐車の車輪来て止る
(なつくさに きかんしゃのしゃりん きてとまる)
夏の河赤き鉄鎖のはし浸る
(なつのかわ あかきてつさの はしひたる)
こうして見ると誓子の作品は、どの句も一本の鋼のように直立している。
「立句」というものとは少し違うかもしれないが、その「立姿の厳しさ」という点に於いては合い通じるものがあるだろう。
掲句は、それらと比べて叙情的なムードがある。
それはやはり「みなうるむ」という表現にあるだろう。
しかし、この一句の「立姿の厳しさ」は誓子らしい一句と言える。
名ある星とは、金星、火星はもちろん、ミザル・プロシオン・カペラ・アンタレス・アルタイル、そして誓子が結社誌名とした「天狼(てんろう)」つまりシリウスもある。
それら壮大な天体ショーをつかさどる星々が春のあたたかな夜の中で、やはらかな光りを滲ませている。
厳しい寒さのゆるび、それが全宇宙にさえ及んでいるような、大きな力を感じているのであろう。
ようやく春の長雨も終わった。
日中はあたたかくても、夜は急に冷え込む日が続いたが、最近は夜もあたたくなった。
夜空を見上げても寒くなくなった。
掲句が実感として感じることができる。