斎藤夏風句集『辻俳諧以後』~発行人・第七句集を刊行する会
斎藤夏風「屋根」主宰は平成29年に亡くなった。
同年、後継誌「秀」が創刊され、染谷秀雄氏が主宰を務めている。
つまり、これは「遺句集」なのだが、そうは呼ばず、「第七句集」としている。
そこに元「秀」同人、会員たちの悲しみがある。
第六句集『辻俳諧』以降(平成21年~29年)の作品が収められてあり、年譜・あとがきを染谷秀雄「秀」主宰が書いている。
主な略歴を以下に。
昭和6年 東京生まれ
昭和23年 関東配電(現・東京電力)入社
昭和24年 早稲田大学第二法学部入学(結核療養の為、中退)
昭和28年 「夏草」入会、山口青邨に師事
昭和40年 「夏草」編集長
昭和61年 「屋根」創刊、主宰
平成11年 俳人協会理事
平成23年 俳人協会賞受賞
句集に『埋立地』『桜榾』『次郎柿』『燠の海』『禾』『辻俳諧』
青邨門には優秀な人材が多い。
深見けん二、有馬朗人、黒田杏子などがいる。
夏風氏も、その系統に連なる。
感銘句を以下に、
クリスマスケーキ手向けてまだ暮れぬ
春コート雨粒のせてつまびらか
信心のそこに湯の神月の峰
ひびくかに大國主命の鏡餅
茶畑のうねりは長し日脚伸ぶ
花びらのいくつ目高の前うしろ
望月の影踏み遊び佃島
鳥渡る地の草なほもみどりにて
魚野川くらみ増しつつ下り簗
水切のしぶき小さくつばくらめ
水打つてひかり一枚ひろがりぬ
どの句も「上質」と言っていい。
写生を基本とした、凝縮した目の持ち主である。
青邨は虚子門の重鎮であるから、夏風氏も「花鳥諷詠」の継承者であるが、「美」というよりは、風景を通して、正直な心の奥底を覗き見ようとしている。
「あとがき」によれば、この句集は元「屋根」同人や「秀」会員からの募金で発刊できた、という。
これも俳縁であり、夏風氏の人柄がいかに慕われていたかがわかる。
※句集、結社誌、同人誌、俳句アトラスまでお送りください。
(林 誠司)