「浮野」平成30年8月号
主宰 落合水尾 編集長 龍野 龍
結社誌・月刊・通巻490号・埼玉県加須市・創刊 落合水尾
「観照一気」を俳句信条として標榜する。
「観照」とは「本質を究める」ということである。
推測だが、
ものの本質、季語の本質などを論理的に考えるのではなく、自己の境涯や知識、感性などをもって、一気に対象に迫る。
ということではないか。
落合主宰は、杉田久女と並ぶ近代女流俳句の先駆者、「水明」主宰の長谷川かな女、その義娘で二代目の長谷川秋子を師系とする。
かな女は東京日本橋に生まれ、新宿に暮らしたが、昭和3年の火事で、埼玉県浦和市(現・さいたま市)に移り住んだ。
かな女の、埼玉県の俳壇に及ぼしたものは大きい。
落合主宰は、埼玉県を代表する俳人として、また、かな女、秋子の伝統を受け継ぐ者として活躍している。
主宰作品〈無辺集〉より
万緑や師弟の情は句碑に寄る
合歓咲くはいつものところ浮野道
炎天の人間大の古ポスト
麦わら帽利根を見て来るだけのこと
身に触れて去りゆく音を滝といふ
数年前、脳梗塞を患ったが、大きな後遺症もなく、元気に復活された。
6月には句碑〈日本の空の長さや鯉のぼり〉が地元・加須市で建立された。
水尾主宰の作品はいつ読んでも、地元加須の、広々とした関東平野や利根川から吹いて来る風に満ちている。
「浮野」は結社誌の名だが、加須市にある地名。
いにしえは、利根川の豊かな水ゆえか、野全体がふわふわとしていたのだそうだ。
「浮野」会員作品も、圧倒的に充実した作品が並ぶ。
結社の年輪のような重厚さ、格調がある。
同人、会員作品より
梅雨晴れやけふも楽しく終はりたる 梅澤よ志子
閑古鳥渋滞の尾は山を出ず 落合美佐子
水も好き空も大好き鯉のぼり 鎌田洋子
雪渓に佇ちて失ふもののなし 粉川伊賀
動かざることに徹して墓碑灼くる 龍野 龍
今までがありて今ある桜かな 原槙恭子
しだれつつ次の風待つ夕ざくら 折原ゆふな
刻々と明けゆく空や滝桜 舩田千恵康
消さるるも残るも言葉彼岸寒 横田幸子
山笑ふ西も東も天下多事 尾高幸江
海を恋ふごとくせり出す桜かな 武蔵富代
寄せ書きの真中の言葉あたたかし 井上和枝
本堂はしだれ桜の奥の奥 鈴木沙和
春の川曲るに岸を押す力 武笠敏夫
お世辞でなくどの句も素晴らしく感嘆した。
的確な写生と豊かな詩情が見事に融合している。
何度も書くが、かな女以来の伝統の重み、「さきたま」の豊かな風土、そして、落合主宰の行き届いた目を感じた。
井上和枝さん、月刊ヘップバーンで出会ったお友達です。浮野も何冊か頂きました(o^^o)
匿名さん コメントありがとうございます。私も以前、ペップバーンの葉山吟行にお供したことがあります。いい思い出です。