句集・結社誌を読む12~「浮野」平成30年8月号

「浮野」平成30年8月号

 

「浮野」平成30年8月号

主宰 落合水尾 編集長 龍野 龍

結社誌・月刊・通巻490号・埼玉県加須市・創刊 落合水尾

 

「観照一気」を俳句信条として標榜する。

「観照」とは「本質を究める」ということである。

推測だが、

 

ものの本質、季語の本質などを論理的に考えるのではなく、自己の境涯や知識、感性などをもって、一気に対象に迫る。

 

ということではないか。

落合主宰は、杉田久女と並ぶ近代女流俳句の先駆者、「水明」主宰の長谷川かな女、その義娘で二代目の長谷川秋子を師系とする。

かな女は東京日本橋に生まれ、新宿に暮らしたが、昭和3年の火事で、埼玉県浦和市(現・さいたま市)に移り住んだ。

かな女の、埼玉県の俳壇に及ぼしたものは大きい。

落合主宰は、埼玉県を代表する俳人として、また、かな女、秋子の伝統を受け継ぐ者として活躍している。

 

主宰作品〈無辺集〉より

万緑や師弟の情は句碑に寄る

合歓咲くはいつものところ浮野道

炎天の人間大の古ポスト

麦わら帽利根を見て来るだけのこと

身に触れて去りゆく音を滝といふ

 

数年前、脳梗塞を患ったが、大きな後遺症もなく、元気に復活された。

6月には句碑〈日本の空の長さや鯉のぼり〉が地元・加須市で建立された。

 

落合水尾「浮野」主宰句碑建立

 

水尾主宰の作品はいつ読んでも、地元加須の、広々とした関東平野や利根川から吹いて来る風に満ちている。

「浮野」は結社誌の名だが、加須市にある地名。

いにしえは、利根川の豊かな水ゆえか、野全体がふわふわとしていたのだそうだ。

「浮野」会員作品も、圧倒的に充実した作品が並ぶ。

結社の年輪のような重厚さ、格調がある。

 

同人、会員作品より

梅雨晴れやけふも楽しく終はりたる   梅澤よ志子

閑古鳥渋滞の尾は山を出ず   落合美佐子

水も好き空も大好き鯉のぼり   鎌田洋子

雪渓に佇ちて失ふもののなし   粉川伊賀

動かざることに徹して墓碑灼くる   龍野 龍

今までがありて今ある桜かな    原槙恭子

しだれつつ次の風待つ夕ざくら    折原ゆふな

刻々と明けゆく空や滝桜    舩田千恵康

消さるるも残るも言葉彼岸寒    横田幸子

山笑ふ西も東も天下多事    尾高幸江

海を恋ふごとくせり出す桜かな    武蔵富代

寄せ書きの真中の言葉あたたかし    井上和枝

本堂はしだれ桜の奥の奥    鈴木沙和

春の川曲るに岸を押す力    武笠敏夫

お世辞でなくどの句も素晴らしく感嘆した。

的確な写生と豊かな詩情が見事に融合している。

何度も書くが、かな女以来の伝統の重み、「さきたま」の豊かな風土、そして、落合主宰の行き届いた目を感じた。 

 

句集・結社誌を読む12~「浮野」平成30年8月号」への2件のフィードバック

  1. 井上和枝さん、月刊ヘップバーンで出会ったお友達です。浮野も何冊か頂きました(o^^o)

    • 匿名さん コメントありがとうございます。私も以前、ペップバーンの葉山吟行にお供したことがあります。いい思い出です。

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