「帆」平成30年11月号
主宰 浅井 民子 編集 岸 克彦
結社誌・月刊・通巻319号・東京都国立市・創刊 関口恭代
主宰作品「とことはに」より
とことはに秋天あをし天守跡 民子
うづたかき白紙原稿桐一葉
秋麗や受くる花束ばら尽し
勝鬨をくぐるこれより秋の海
息荒く駈け寄る栗毛天高し
浅井主宰とは、これまで何度もお会いしているが、清潔で物腰の柔らかい人物である。
作品も同様、どの句にも清潔感がある。
言葉が簡潔で、余計な形容詞、形容動詞など修飾語を多用しない。
例えば、山口誓子の句などがそうであるが、誓子のような乾いた抒情ではなく、しっとりとした艶がある。
女性だから、ということもあろうが、おそらく、言葉の選択がしなやかなのである。
また、「転換」の句に“冴え”を感じる。
例えば、
うづたかき白紙原稿桐一葉
「うづたかき白紙原稿」には「静」があり、そこから「桐一葉」には「動」への転換がある。
また、「白紙原稿」には透明感があり、「桐一葉」には「愁い」が生まれる。
つまり、一句の中で、「静から動への転換」「透明感から愁いへの転換」である。
俳句の「もどき論」「二句一章論」を言うまでもなく、俳句の醍醐味は「転換」にある。
勝鬨をくぐるこれより秋の海
も同様。
「勝鬨」という言葉には、いい意味でも悪い意味でも「人間臭さ」がある。
そこを抜けると、澄み渡った「秋潮」が広がっているのだ。
「凝縮」から一気に「澄み渡った景色」へと展開してゆく。
まあ、俳句をこうやって理論で固めてはいけないが、そういう「転換」の妙、というより、詩の世界を一気に開いているのである。
誌面に戻る。
浅井主宰はこのたび、日本詩歌句協会の第14回日本詩歌句随筆評論大賞の俳句部門大賞を、句集『四重奏』で受賞した。
11月号では、授賞式の模様が報告されている。
「受賞の言葉」より。
『四重奏』は平成22年の「帆」主宰を継承しました時から平成29年までの八年間の作品を収めました。
大きな転換点、変化の時、そして多少の困難もありましたが、この間、より良い結社、より良い作品へと「帆」の仲間と共に俳句を楽しみ歩んで来ることが出来ました。
「会員作品」より
陸稲刈る日曜農の父の靴 大木 舜
猪と熊の命をいただきぬ 構井陽子
秋の朝慣れし手順の紅茶二杯 上阪信道
空耳か鶏頭にはて喉仏 鈴木照子
これがまあ朝から待てる今日の月 名小路明之
迷走の千の羊の夜長かな 廣瀬 毅
縄文の土偶の目開く月今宵 海老澤正博
誌面では他に、
十月の詩 大木 舜
受贈誌管見~「風の道」「樹氷」 海老澤正博
私の好きな十句(「帆」9月号) 構井陽子、谷藤房枝
随筆「地球めぐり」(40) 上阪信道
受贈句集紹介 土屋義昭
受贈誌より転載
これらの執筆陣は、作品欄でも活躍している。
作品だけでなく文章の充実を目指している姿勢、また、読み物としても楽しめる編集姿勢が感じられる。