句集・結社誌を読む24~「氷室」平成30年11月号

「氷室」平成30年11月号

「氷室」平成30年11月号

主宰 尾池和夫 名誉主宰 金久美智子 編集 尾池和夫

結社誌・月刊・通巻312号・京都府宇治市・創刊 金久美智子

 

主宰作品「瓢鮎抄(119)」より

香を聞くひととき月に雲流れ      尾池和夫

雲掃くは魔女の帚か居待月

山里に菊の残るれる木喰仏

蜩にひぐらし重ね志明院

奥美濃や酒の肴に山胡桃

 

尾池主宰は京都大学総長を務めた知性派。

東京のお生まれらしいが、今は宇治市に住む。

いかにも京都の風情に満ちた作品群である。

「香を聞く」とは「聞香」(もんこう)のことであろう。

香炉からの香りを「聞く」のである。

「香を聞く」というのは「嗅ぐ」とは違うそうだ。

心を傾けて、香りを聞くことらしい。

こういう句が見られるのは、いかにも京都の結社らしい。

「木喰仏」「志明院」の句なども同様である。

一方、「魔女の帚か」などという句もある。

尾池氏は地震学者である。

 

「氷室」は金久美智子氏が京都で創刊した。

「氷室」は、氷や雪を保存し、貯蔵する場所である。

なんとなく北国の印象があるが、京都の山奥に、昔、たくさんあったらしい。

金久氏は長年、主宰を務めたが、今は健康上の理由で作品を発表していない。

 

巻頭に、与謝蕪村、石田波郷、小林康治、金久美智子、尾池和夫の作品を掲げる。

たまたまではあろうが、蕪村の作品があるのも京都らしい。

巻頭でわかるように、「氷室」は石田波郷の「鶴」から生まれた結社である。

波郷は、中村草田男、加藤楸邨とともに人間探求派と称された。

近年、立て続けに草田男の「萬緑」、楸邨の「寒雷」が終刊した。

波郷の「鶴」系にはぜひ頑張って欲し、という気持がある。

 

同人、会員作品より

喉越しの水しみじみと原爆忌    友永美代子

冬瓜切る力かげんと煮る加減    尾池葉子

歩かねば分らぬ地形鷹渡る     長野眞久

家中の窓あけてある文月かな    三和幸一

つくつくし岩の凹みは棹の跡    矢削みき子

手から手へ草市のもの滴らす    松本節子

荒砥石の疾くと水吸ふ残暑かな   余米重則

絵馬堂の軒先に吊り夜店の灯    吉田恭子

秋晴や開き癖ある鳥図鑑      大口彰子

宗祇忌や淵に飛び込む郡上の子   本庄百合子

 

波郷系俳句の良さは、一言で言えば「詠み下し」である。

松尾芭蕉は言うように、一気に句を詠み下すのである。

それゆえ、余計な言い回しはしない。

芭蕉と競う

と言った、格調の高さがある。

 

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