句集・結社誌を読む28~「残心」2018年冬号(第14号)

「残心」2018年冬号

 

「残心」2018年冬号(第14号)

主宰・編集 中戸川由美

結社誌・季刊・通巻14号・神奈川県横浜市・創刊 中戸川由美

 

中戸川由美主宰は、「方円」創刊主宰・中戸川朝人の娘。

朝人主宰は大野林火門。

大野林火は、野澤節子、松崎鉄之介、大串章など、優秀な人材を育てた。

朝人氏もその一人。

由美主宰から話を聞いたことがあるが、大変俳句指導に熱心で厳しい人であった、という。

「残心」はその厳しい俳句の詩精神を継承している結社だ。

良く知られた句に、

 

ひかり捨てひかり捨て鴨引きゆけり

 

がある。

これを見てもわかるように、自然の厳しさ、神々しさを抒情的に詠いあげた俳人で、2011年に84歳で亡くなった。

「残心」は朝人氏の句集名でもある。

 

「残心」巻頭では「朝人の一句」を紹介し、由美主宰が鑑賞している。

 

影を曳くものに加はり寒卵

中の卵は殊に滋養に富むと言われている。

卓上に置かれた寒卵がうっすらと影を落としている。

朝人は青春時代結核に倒れ、療養生活を余儀なくされていた。

栄養士をしていた姉がお見舞いによく卵を差し入れてくれ有り難かったと聞いている

当時、卵はかなり貴重なものであった。

死線を越え生きて今あるおのが命。

寒卵の影さえいとおしい。

この句にはそんな思いが込められているように思えてならない。

 

主宰作品「舫ひ綱」より

はつあきやフジタの女発光す      由美

弓返しのあとの残心秋のこゑ

逍遥の果てに港のいわし雲

シャンソンにひろふ仏語や秋深し

舫ひ綱色なき風に放ちけり

新米のどかと届けり帯祝

観音のいま日面に朝人忌

駅出でてひとりにひとつ冬満月

 

「残心」というべきか、「方円」というべきか、朝人氏にしても、由美主宰にしても「港ヨコハマ」の匂いがする。

どことなくハイカラ(…ちょっと古い表現だが)、「潮風」の匂いがする。

特に、

舫ひ綱色なき風に放ちけり

には、透明感のある抒情を、

駅出でてひとりにひとつ冬満月

には、都会の淋しさと、ある意味、カッコよさも感じる。

 

同人作品より

華やぎてよりの淋しさ走馬灯   大胡芳子

とんばうの乗る山の風沢の風   中島吉昭

尼寺に飛び交ふ栗鼠や秋澄める  西田啓子

新涼やみづみづと星拭はれて   島端謙吉

幼くて知りし淋しさ走馬燈    徳永武子

片陰や古地図に辿るビルの街   渡辺育子

暁光に竹の葉さやぐ冬の寺    柴田悠山

虫の夜の闇に濃淡ありにけり   木村登龍

墓参り小さき旅めく野紺菊    志田洋子

 

11月は朝人氏の忌月。

誌面では朝人氏との思い出などをつづったエッセイなども掲載されている。

   

 

 

 

 

 

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