句集・結社誌を読む30~渡邉美保句集『櫛買ひに』

渡邉美保句集『櫛買ひに』

 

著者:渡邉 美保(わたなべ・みほ)

句集名:櫛買ひに(くしかいに)

第一句集 俳句アトラス 2018年12月25日

 

けむり茸踏んで花野のど真ん中

 

第29回俳壇賞作家の第一句集。

俳壇賞は、俳句総合誌「俳壇」を刊行する本阿弥書店が主催する賞で、未発表作品30句による競われる賞。

角川書店の角川俳句賞と並ぶ、新人作家の登竜門である。

 

著者は熊本県天草生まれ、兵庫県伊丹市在住。

現在、岡田耕治主宰「香天」の同人、および、ふけとしこ氏の句会「とんぼり句会」に所属している。

私の知っている限り、角川俳句賞や俳壇賞などは何年も何年も挑戦し、やっと受賞できるもの…、いや、多くの人が何年挑戦しても受賞できないのが現状だ。

長谷川櫂さんにインタビューした時、おっしゃっていたが、彼は何年も挑戦し、いいところまで行ったが結局受賞できなかった、という。

それくらい受賞というのは難しい。

氏は初挑戦で受賞した。

これは驚くべきことではないか。

 

風花や島の突端まで歩く

島の端に鉄屑の山十三夜

海鳴りの暗きへ鬼をやらひけり

朝涼や草色の糞落とす馬

寒林に水音のやうな鳥のこゑ

紋白蝶呼んで弁当開きけり

烏瓜灯しかの世へ櫛買ひに

揺れてゐる芥子から順に切られけり

 

「島の端に」の句は「島」だけでなく「島の端」、「朝涼や」は「糞落とす」だけでなく「草色の糞落とす」が「写生」である。

これが正岡子規が本来目指した、(高浜虚子の「客観写生」とは違う)「写生」である。

子規がなぜ「写生」を提唱したか。

それは「リアリズムの追求」である。

この場合「島の端」「草色の糞」が「リアリズム」である。

「島の端」ということから、おそらく本土から持ち込まれたものであろう。

そこに現代の「リアリティ」がある。

「草色の糞」は、馬の野生の「リアリティ」である。

彼女が「写生の徒」と言っているわけではない。

「海鳴りの」「紋白蝶」は作者の持つロマンから生まれた、観念を孕んだ世界である。

「寒林に」は「鳥のこゑ」を感性によって表現した。

 

つまりあらゆることに長けた作家と考えるべきで、初挑戦で受賞したこともうなずける。

「序」を執筆担当したふけとしこさんも彼女が、次々と「進化」してゆく様子を紹介している。

「跋」は内田美紗さん、「帯文」は岡田耕治氏が担当、多くの実力俳人が認める美保氏の待望の第一句集である。

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