句集・結社誌を読む35~「あだち野」2018年アンソロジー

「あだち野」2018年アンソロジー

 

 

「あだち野」2018年アンソロジー(通巻40号)

主宰 一枝 伸 編集 矢作十志夫

結社誌・年刊・創刊1997年・東京都足立区・創刊 一枝 伸

 

「俳句は発見であり、感動の表現である」を標榜する。

 

一枝主宰のもと、編集のプロであり、俳人としても活躍する矢作氏が編集を務める。

年一回の刊行とし「アンソロジー」という形式を取る。

こういう結社誌を手にすると、苦労しながら「月刊」を維持し続けている結社誌の問題を考える。

いまや何千人を誇る結社はおそらく「1ケタ」しか存在しない。

それはそのまま結社の経済力、経営力の衰退を意味する。

また、多くの結社の編集部も高齢化している。

わずかの人数が、ほとんど無償で編集をしている。

かなり無理がある、と断言していい。

それだけに結社誌の内容もはっきり言えば薄い。

結社が相次ぎ廃刊しているのは、そういう事情もある。

 

「あだち野」誌面を見ると、もちろん、編集のプロの矢作さんが手がけているから、ということもあるが、一年をかけてじっくり取り組んでいるだけあり、誌面も充実している。

 

【異論俳論】 一枝 伸

【葦立集】 一枝 伸

【巻頭随筆】 角谷昌子、金子 敦、林 誠司

特別企画【「俳枕」を訪ねて(2012年~2017年)】

【2018年作品集】 花王集 白梅集

【主宰の一句】

【季語の周辺】 矢作十志夫

【2018年「主宰特選句一覧」】

【寒行集】(年間秀逸句)

【俳句と写真で見る「あだち野」の一年】

【秀句鑑賞】 松木靖夫 他

【あだち野悠々】

【吟行レポート】 初大師吟行、牡丹吟行、小石川後楽園吟行、東京大学吟行

【トピックス】

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【アンソロジー・バックナンバー一覧】

【あだち野俳句会・句会場一覧】

 

と実にきめこまかい。

写真もふんだんに使っていて、見る楽しさもある。

これらは昨今の、他の結社誌には見られないものである。

年刊とまではいかないが、多くの結社誌も参考にして、ムリのない発行を考えてもいいのではないか、そのほうが結社の「寿命」も延びるし、誌面も充実するのではないか、と考える。

 

【葦立集】(主宰作品より)

あちこちに落葉を溜めて鎮守さま

寸ほどの枝の先より寒桜

境内の奥よりきこゆ春の滝

公園の端から端まで花吹雪

風の日の牡丹に深く竹を差す

 

少し大げさだが「言霊」ということを感じる。

「鎮守さま」の句である。

これを、

 

あちこちに落葉を溜めて八幡社

 

では陳腐極まりない。

「鎮守さま」という「言葉」に作者の親しみの思いが籠もっている。

おそらく、そこは作者の「産土」であり、子供のころから見守ってくれていたのだ、という親しみが込められている。

「様」ではなく「さま」としたのにも「親しみ」がある。

この「鎮守さま」という下五の言葉で一句が上等なものになった。

一枝さんの作品にはそういうものがある。

 

【会員作品より】

片付けてしまふは惜しき鰯雲   松木靖夫

切り通し越えれば天城夏はじまる   水本ひろ人

空蝉をくしやりと潰す猫パンチ   西川政春

腰すゑて釣を見てゐる薄暑かな   村井栄子

缶蹴りの缶の凹みや梅雨に入る   河合信子

しんがりに産まれし子猫もらひけり   二瓶里子

次の世をみてきたばかり冬の蝶   菅沼里江

病葉をリュックに付けて帰り来ぬ   小松トミ子

誘はれてゐる食事会春浅し   尾形けい子

うららかやあまり物事考へず   天野みつ子

天高し化粧なほしのレストラン   石田むつき

順調に老ゆるいちにち冷奴   澁谷 遥

釣舟のただある沼の秋夕焼   伊藤弘子

一句にも筋力つけたし二月尽   竹内祥子

雪だるまさうは見えねど雪だるま   岡田みさ子

塩地蔵等身大の赤マント   越川てる子

説明書とばして読んで日の永し   田ケ谷房子

観覧車はるかに広がる春田かな   國井京子

あかあかと山の頂ななかまど   三浦恒子

静けさを指にくはへて昼寝の子   矢作十志夫

虫干しは昔をしのぶ袴かな   田ケ谷保二

文月や短冊の字に風流る   五十君與志子

原節子偲んで歩く冬の海   渡辺 徹

名も知らぬ五重の塔の夕霞   田口 修

風鈴や無風の中に経の声   佐藤やよい

自転車の籠の中から千住葱   吉村すみえ

花便りピンクに染まる日本地図   水谷義江

豊の秋生あるものの淫らなる   高野敏男

 

はばかりながら、私も巻頭エッセイを執筆している。

「俳句は庶民の詩」という主旨のことを書いた。

 

 

 

 

 

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