中村猛虎(なかむら・たけとら)、本名・正行(まさゆき)。
1961年生まれ。
2005年、句会亜流里設立。
2011年、風羅堂第十二世襲名。
現在、句会亜流里代表、俳誌「ロマネコンテ」同人、俳誌「俳句新空間」同人。
現代俳句協会会員。
早逝の妻に捧ぐ第一句集。
さくらさくら造影剤の全身に
余命だとおととい来やがれ新走
卵巣のありし辺りの曼珠沙華
秋の虹なんと真白き診断書
遺骨より白き骨壺冬の星
葬りし人の布団を今日も敷く
早逝の残像として熱帯魚
少年の何処を切っても草いきれ
手鏡を通り抜けたる蛍の火
この空の蒼さはどうだ原爆忌
蛇衣を脱ぐ戦争に行ってくる
秋の灯に鉛筆で書く遺言状
たましいを集めて春の深海魚
三月十一日に繋がっている黒電話
缶蹴りの鬼のままにて卒業す
水撒けば人の形の終戦日
心臓の少し壊死して葛湯吹く
ポケットに妻の骨あり春の虹
「跋」林誠司(「海光」代表)によれば、猛虎氏は大胆さと繊細さが入り交じる、詩情ありユーモアありの多彩な作品群で、深みのある詩情を持っている。
芭蕉も「俳諧の益は俗語を正す也」(『三冊子』)と述べていて、彼の作品にはその伝統が引き継がれて、ひいては俳句の現代性を生み出している。
「あとがき」に、趣味でやっていた作詩作曲、その歌詞からイメージした作品は、句会で同僚の作句を圧倒し、とても気分がよかった、といっている。
(俳句アトラス 2,400円(税込))
―「好日」2020年9月号 新著紹介 執筆・片岡伊つ美―