余命だとおととい来やがれ新走
卵巣のありし辺りの曼珠沙華
ポケットに妻の骨あり春の虹
句集前半と巻末(一句)に妻の闘病と逝去(54歳)の慟哭を収める。
私も十三年前に癌で妻を亡くしているだけにその悔しさ虚しさが痛いほど理解できる。
この空の蒼さはどうだ原爆忌
夏シャツの少女の胸のチェ・ゲバラ
ステージに空き椅子ひとつ原爆忌
刃物研ぐ音を吸い込む秋の雨
蟻殺す国語教師に戻るため
引火するまで向日葵の増殖中
前三句は現実描写から思いを述べ、読者の想像力に委ねている。
後の三句は心奥の屈折や内面意識の代替物として季語が象徴的に扱われている。
何れの句も批評精神は旺盛。
(令和2年5月9日 俳句アトラス 2273円(税別))
ー「山彦」2020年9月号「受贈誌御礼」 執筆・河村正浩―