昭和2年千葉県生まれ。
昭和57年「蘭」入会。
平成5年「蘭」同人。
著者は「蘭」の最古参の一人。
師と仰ぐ野澤節子への思いが作品に表れ、格別な詩情が溢れ出ている。
卒寿を迎え、三十七年の自分史の証となっている。
白鳥引く藍の深きを湖に置き
われに沿ふ師の影さくら咲きてより
時を経て思慕の深まり沙羅の花
成田市名古屋の、住居周囲の季節の変化が手に取る様に伝わって来る。
雪道を誰やら掻きてくれたらし
わが髪もしだれざくらも風の中
産土に啼く夜啼かぬ夜青葉木菟
十六夜の利根川の細身の舫ひ舟
雪来るか竹のさやぎを瑠璃越しに
水遣りて百の鉢より涼貰ふ
千葉支部千紅会、石毛喜裕氏を悼みて
君と寄りし茶房にひとり春惜しむ
喜裕の声とも雁の声を聞く
夫君亡きあとの思慕の情の優しさと暖かみ。
声とどく距離に夫ゐる茸採り
かたはらにもう夫在らぬ掘炬燵
亡き夫の咳の聞こゆる夜半目覚
誰よりも亡夫に見せたく牡丹剪る
―「千種」2020年秋号 句集紹介 執筆・佐野友子―