『翠嵐』(俳句アトラス)は、新谷壯夫の第二句集。
瀧道のここより音の世界かな
三川の風の集ひて木枯に
極めて独自性の高い景ながら、実に普遍的だと感じさせる。
俳句作品の持つ両義的なベクトルの、理想的顕現。
葉脈を噛みて香のます桜餅
山の色里の色盛る秋果かな
スタイリッシュな、凛とした〈らしさ〉の屹立した句。
この〈幾何学的な感性〉も俳句的表現の核の一つなのだなあ、と深く納得させられる。
小綬鶏に呼びつけられて行つてみる
蛸の足食べて浪花の半夏かな
踊り子に手を取られゐて抜けられず
人肌の温みの強いこうした句群も、前景の理知的な句群とはまた質の異なる魅力を発している。
〈やるせなさへの微苦笑〉の味わいが深い。
竜天にのぼる階段京都駅
参詣の人くれば鳴く雨蛙
風景の実体に、強い思念が籠る。
この〈人懐っこい把握・描出〉こそが、作者の真骨頂・独壇場なのだと思う。
1941年兵庫県生まれ。
枚方市在住。
「鳰の子」同人。
ー「京都新聞」(詩歌の本棚)・彌榮浩樹2025・5・19ー