俳句を始めて10年、次のステップのために刊行した。
ラフランス自由はどこかいびつなる
蛇泳ぐ川面にエノラ・ゲイの影
駅ビルのエアロビクスや三島の忌
問題意識旺盛な方である。
作者にとっての昭和とは「蛇泳ぐ」や「駅ビル」の句のように、消えることのなく脳裏に記憶されているのである。
批評の芯は固い。
三代のふぐりを見たる扇風機
満天に星を吐きたる大枯木
するすると紐下りてくる朧の夜
包丁を入れても笑ふ鯰かな
時代祭うしろ姿に足がない
二、三、四句目は何れも季語が象徴的に詠まれているから季語を越えての風景が見えて来る。
また、「三代の」「包丁を」「時代祭」の句は実に愉快。
こうした背景には中村猛虎氏が代表の「亜流里」の自由闊さゆえではなかろうか。
(令和3年9月9日、俳句アトラス、2,500円税込)
-「山彦」11月号(2021年)「受贈俳書紹介」 執筆・河村正浩-