梅ふふむ睫毛を足してゐる鏡
昭和史に黒く塗りたる櫻かな
摘みて食ぶ胸に苺の雫かな
ロ短調のやうな六月けむりの木
パセリ食べ華麗な嘘を許しおく
秋思かな海見てぬぐふ老眼鏡
萩くくる己に容赦なきよはひ
冬薔薇棘の触れたる運命線
実に多彩且つ自在である。
中でも「昭和史」の句には深く共感。
自己の人生を前向きに進んでいるから、作品全体に生きている喜びが溢れている。
また、書道、アートフラワー、フラワーアレンジメントを趣味とされているように、都会的、且つ女性としての雅な作品も多い。
長嶺千晶「晶」主宰の帯文より。
舞踏会へと赴くやうな華麗な美しさに憧れた若き日々。
戦争によって封印された時代の記憶は、今、命の輝きのしずけさとなって蘇る。
海野さんが生涯を賭して追い求めた美のかたちが、ここに在る。
(令和2年5月30日 俳句アトラス 2091円(税別))
―「山彦」2020年9月号 受贈誌御礼 執筆・河村正浩)―