「雲の峰」同人の第一句集。
釜山生まれだが、昭和19年、山口県熊毛郡周防国民学校、昭和40年、山口大学医学部大学院修了とある。
高松市在住。
平成18年、「雲の峰」に入会し、朝妻力に師事。
逆さまに雲の垂れゐる日暮時
ゆつくりと屋島を昇る朝の霧
風鈴を吊るし山風呼びにけり
トルコ産の松茸尽し子らも来て
妻と酌むバレンタインの日のワイン
母の忌や厨の蠅をそつと追ふ
犬連れて風と遊ぶ子秋高し
行く春の札所の辻に竹箒
実に平易で作者の姿や表情が浮かぶ。
日常の出来事や眼にした風景をそのまま叙したような句だが、それが俳句になるのは作者の人間性、向日性、気負いのなさであろう。
主宰の序文でも「徹頭徹尾真摯である」と述べられている。
この一書は風土と一体化した作者の日々の哀歓の諷詠である。
(令和3年7月15日 俳句アトラス 2,500円(税込))
-「山彦」11月号(2021年)「受贈俳書紹介」 執筆・河村正浩)-