『東路』(あづまぢ)
著者:成瀨 喜代(なるせ・きよ) 「蘭」同人
雪道を誰やら搔きてくれたらし
成瀨喜代さんは「蘭」最古参のお一人である。
永い人生の悲喜こもごもを前向きにとらえた「生のあかし」が、ここに永遠にとどめられたことを心より喜びたい。
―松浦加古「蘭」名誉主宰―
【収録作品より】
わが髪もしだれさくらも風の中
灯台は女神のすがた春光る
声とどく距離に夫ゐる茸採り
利根川を去るきつかけの嚏かな
白鳥引く藍の深きを湖に置き
われに添ふ師の影さくら咲きてより
亡き夫に謝すことばかり天の川
障子貼りこの明るさに一人棲む
待つといふ心の張りや牡丹の芽
影もまた匂うてをりぬ梅林
身に入むやおはすごと置く男靴
二度訣かるる思ひに捨つる白絣
星月夜あふぎ逢ひたき人あまた
【著者略歴】
成瀨 喜代(なるせ・きよ)
昭和2年(1927)10月 千葉県に生まれる。
昭和57年(1982) 「蘭」入会
平成5年(1993) 「蘭」同人
千葉県成田市在住