加藤房子句集『須臾の夢』
白梟首をぐるりと月隠す
たかんなの雨後の育ちの下剋上
晦日蕎麦過去も未来も須臾の夢
一句目の下五での転換の面白さ、二句目のエネルギッシュなリズム感、三句目のもう一人の自分を見つめる冷静さ等作品は多彩。
二十年ぶりの第二句集。
桐一葉母の命の澄みてきし
白骨の余熱は未練冬の薔薇
生も死も影の相寄る大干潟
音もなく一病と棲む春障子
蛤になる後ろ指さされても
この間、母上の看取りとご主人の看取りに加えてご自身も癌の手術を受けられたとのこと。
母上の最後のご様子が見て取れる一句目。
二、三句目からはご主人を亡くされた衝撃を受け止めようとする前向きさが伝わってくる。
四句目は現在を受け容れる作者の姿が美しい。
この覚悟が五句目だろう。
掉尾の、
楽しとは生涯未完亀鳴けり
が力強い。
―「雲取」2019年2月号 「句集・俳書存問」(執筆・物江里人)―