昭和2年千葉県生まれ、同57年「蘭」入会、平成5年「蘭」同人。
名誉主宰・松浦加古氏の序によれば、作者は、野澤節子健在の頃の「蘭」に入会した最古参の一人。
現在91歳。
この句集のメインテーマは、
(1)生涯の文芸の師と仰ぐ野澤節子への格別の思慕
(2)作者の住む成田市名古屋の風景、とりわけ作者の自宅の前にある小御門神社も美しい聖域
(3)夫との生活、更に夫亡きあとの思慕
の三つである。
句集名「東路」、作者の先祖がその創建に携わった「小御門神社」のご祭神・太政大臣藤原師賢の歌、
東路やとこよの外に旅寝して憂き身はさそな思ふ行く末
に因む。
句集帯掲載句より十句
利根川を去るきつかけの嚏かな
白鳥引く藍の深きを湖に置き
われに添ふ師の影さくら咲きてより
亡き夫に謝すことばかり天の川
障子貼りこの明るさに一人棲む
待つといふ心の張りや牡丹の芽
影もまた匂うてをりぬ梅林
身に入むやおはすごと置く男靴
二度訣かるる思ひに捨つる白絣
星月夜あふぎ逢ひたき人あまた
(俳句アトラス 2,315円)
―「海」2019年9月号 「新刊句集紹介」(執筆・後藤勝久)―