『山懐』(俳句アトラス)は新谷壯夫の第一句集。
平成18年から30年までの、341句を収録。
光堂出て五月雨の中にをり
昏れてなほ鉾の長刀光りけり
簡潔な叙法による軽やかで硬質な風趣。
二句ともに、印象的な「光」が体感される。
鉄棒に真つ直ぐ駆けて入学す
傘の波高く低くと牡丹守る
大方は裏返りたり朴落葉
「真つ直ぐ」「高く低く」「大方は」の措辞が生動している。
力感の動き、方向の描出によって、見慣れたはずの景が印象的に立ち上がる。
神農祭屋台のくすり売れてをり
万緑や吊橋渡る順きまる
出来事を描いた二句だが、景としても味わい深い。
季語「神農祭」「万緑」の、多重なイメージ喚起力の働きだ。
洛外やみどりの囲む朱の社
鮎落ちて尖る瀬の音風の音
色の対照、音の並列。
実景に蔵された質感が、大胆に鮮やかに造形化されている。
昭和16年兵庫県生まれ。
大阪府枚方市在住。
「鳰の子」同人。
京都新聞2019年10月21日(月)「詩歌の本棚」(新刊評) 執筆:彌榮浩樹