佳作 抜井諒一「とこしなへ」
山よりも麓の村に春の雪
残雪や岩のごとくに砕けたる
紙袋より猫の子の顔出せる
正直に寝坊と述べぬ新社員
山桜まで続きたるけもの道
枝のすぐそばの空より散る桜
花屑に埋め尽くされし筵かな
散つてゆく色づいてゆく冬紅葉
風花の止みてどこにもなかりけり
佳作 松本みゆき「風となる」
新緑の風の生まるる駅で下車
一島は万緑のなか鳶の空
夏帽子青き木洩れ日拾ひゆく
清水てふ山の鼓動を掬ひけり
ががんぼの風に吊られてゐる自由
雑巾の乾き切つたる休暇明
つぎつぎと風に飛びつく草の絮
廃線は過去その先は冬銀河
大凧のゆるがぬ意志をぐいと引く
花屑をつけ子の尻が吾の膝に
佳作 飯塚柚花「ひとりになりて」
今の色今だけの色木の芽吹く
石鹸玉父の高さと子の高さ
花の声ひとりになりて聞こえくる
母の日の配達人の笑顔かな
アクセサリー何もつけない風薫る
蓮の葉をこぼれてただの水となる
みな汗の匂ひをさせて起きてくる
釣竿と部活の道具もつて夏
びつしりと鳥の止まれぬほど冬芽
山肌を隠し山襞見せて雪