家族とも裸族ともなり冷奴 辻村 麻乃
働かぬ蟻ゐて駅前喫茶店
嫉妬てふ限りなきものサングラス
辻村麻乃句集『るん』 俳句アトラス刊
第二句集。
『るん』はルンという言葉の概念に依る。
詩人の岡田隆彦、俳人の岡田史乃の間に生まれ、新しい風を吹いても良いのではと思うようになったと。
発想がどこへ跳んでゆくか予測出来ない作家である。
一句目、クーラーが普及する以前の典型的な日本の夏。
夕焼空、豆腐屋のラッパ、蚊取線香。
ステテコやアッパパ姿の家族で囲む夕餉。
冷奴の涼しさと、たっぷりの会話もこれ以上なきご馳走。
「家族」「裸族」のリズムが楽しい一句。
二句目、茹だるような真夏の昼間。
冷房の効いた喫茶店で束の間の休息を取るサラリーマン諸氏。
個々の集まりが大きな群となり、やがて堅固な社会を作り上げてゆく過程の中、次のステップへのエネルギーを蓄える貴重な時間。
身近な蟻に譬え、少々の揶揄を込めた励ましの句と受け止める。
三句目、ハートのある生物にとって逃れられないネガティブな感情。
善悪、教養の有無に関係なく、軽いものから根深いものまで、置かれた立場により千差万別。
忌わしいイジメも嫉妬が発端という。
回避は困難だが、まず他との比較をやめ、努めてやるべき事に集中する。
猶且つ、煩悩に苛まれるなら、嫉妬の炎に燃える眼を洒落たシャネルやレイバンのサングラスに閉じ込め、真夏の太陽に身を焦がせよう。
「枻」令和元年9月号「現代俳句を読む」(執筆・高成田満理子)