加藤房子句集『須臾の夢』が「鳰の子」8・9月号「句集に学ぶ」(執筆・岩出くに男)で紹介されました。
柴田多鶴子「鳰の子」主宰のご承諾を頂き、転載します。
本書は著者の第二句集である。
長年の俳句活動の極みか、読み手に感動を与えてくれる句が多く、心に残る句集である。
七変化終の一手の惚けぶり
春の雪誤解そのまま埋めゆく
白梟首をぐるりと月隠す
夕凪や地球は自転止めてをり
だが、この句集の白眉は、夫君を亡くされた時の著者の句の数々である。
読みながらある種の哀しみと慟哭を共有せずにはおられなかった。
その内の幾つかを上げる。
今生の息一線を曳き凍つる
白骨の余熱は未練冬の薔薇
誰も居ぬ鍵開け寒の灯をひとつ
その先は落花に託し納骨す
これらの句を読みながら、追悼のもっとも素晴らしい文学形式は俳句であると感じた。
散文では、これらの句を読んだ後の余韻に遥かにおよばない。
省略の文は、言いつくす散文にまさる例を実感させて頂いた。
感謝。
(岩出くに男)