さっきまで奈良県にいて、事務所に戻ると印刷株式会社より、小澤冗さんの句集の「見本」が届いていた。
小澤冗さんは「河」で研鑽し、現在は「鴻」の主要同人として活躍している。
「ひとり遊び」という句集名は、
茶が咲いてひとり遊びといふ齢
から取っている。
これについて冗さんは「あとがき」でこう書いてある。
「ひとり遊び」とは、自分の余生は自らの責任で充実させていくのだと言い聞かせ実践していこうとの決意から斯様な句を詠んだこともあって、この題名を選んだ。
つまり、この「ひとり遊び」とは、冗さんにとって「俳句」なのだと思う。
もちろん、俳句以外もあるだろうが、その大きな一つが「俳句」であった、と考えていい。
私は編集者として帯に、
人生諷詠の現代の形
と入れた。
帯裏の自選十二句からいくつかを紹介しよう。
一病は一芸のうち実南天
ペースメーカー撫でて柚子湯に浸りをり
これは自身のご病気を詠った句。
ペースメーカーを入れながら、現在では、俳句講座の指導などもされている。
津軽じよんがら三日続きの雪となる
妻のこゑ忘れぬやうに浮いて来い
奥様の故里は青森、先年、すい臓がんで亡くなられた。
呟きの泡を吐きたる田螺かな
この句については、跋文で「鴻」編集長の谷口摩耶さんが触れているので引用しよう。
平成29年4月、俳人協会主催「花と緑の吟行会」が市川市で開催され、冗さんも手伝いに駆り出されていたが、その忙しい最中に投句した句である。
四百名という異例の参加者の中で、見事、選者の片山由美子氏の特選に選ばれた冗さんは、新たな一歩を力強く踏み出したのである。
この句も人生諷詠の一つのスタイルと考えていい。
「田螺」は作者の投影なのである。
「鴻」では吟行競詠1位を獲得したり、特別功労賞を受賞されている。
充実した作品群をぜひ読んでいただきたい。
なお、この本の装丁のデザインは中澤睦夫さん。
新しい句集の装丁を切り開きたい、と思い、建築雑誌のデザイナーである彼にお願いした。
カバーにも帯にも「水輪の模様」が入っている、これまでにないデザインを考えてくれた。
印刷所もミスなく仕上げてくれた。
初めてのデザイナー、初めての印刷会社との仕事ということでひさびさ緊張したが、いい句集が出来た。