中村猛虎句集『紅の挽歌』が「鴻」2020年9月号で紹介されました!

 

1961年、兵庫県生まれ。

横浜国立大学工学部卒。

2005年、句会「亜流里」設立。

2011年、風羅堂第12世襲名。

現在、句会「亜流里」代表、現代俳句協会会員。

 

梅雨深し何処も彼処も白い病院

葬りし人の布団を今日も敷く

梟や喪服の中にある乳房

手鏡を通り抜けたる螢の火

ほうれん草の赤いとこ好き嘘も好き

ふらここに立ち漕ぎをして恋終る

原爆忌絵の具混ぜれば黒になる

あと幾度母の日の母に会えるのか

息吸わば吐かねばならぬ桜桃忌

ポケットに妻の骨あり春の虹

 

林誠司(「海光」代表)は跋文の中で「俳句的手垢が全くないのに不思議と深みのある作品」と言っている。

第一句集『紅の挽歌』が多くの俳人の心に届くことを願っている。

今後の活躍をお祈り致します。

 

―「鴻」2020年9月号 句集拝見 執筆・水谷はや子―

 

 

福島たけし句集『寒オリオン』が「帆」令和2年6月号で紹介されました!

 

福島たけし著『寒オリオン』(俳句アトラス刊)

 

きぶし咲き山よみがへる雨の中

 

キブシ科の落葉小高木、山地に生ずる。

高さ二、三メートル、春になると葉より先立って多数の淡い黄色で穂状の花を咲かせる。

材は杖、柄、楊枝などとする。

マメブシ。

漢名、通条花。

やさしい春雨にぬれるとしっとりと美しく風情がある。

雄大な自然詠、ひそやかな人生諷詠、凛然たる詩魂、と帯文にある。

昨年には念願の句会「コトリ」を開かれている。

第四句集である。

 

丹沢山使者の如くに冬の日矢

渦をなす青葉如意輪観世音

大杉の彼方に夏の富士黒し

冬椿飾らぬ人も最も艶

春愁の空ととけあふ海の色

雲の峰千年杉をわしづかみ

源流はここより霧の山紫陽花

涅槃会の天も小雪を舞はせけり

 

―「帆」令和2年6月号 受贈句集紹介 執筆・井原愛子―

 

 

佐藤日田路句集『不存在証明』が「好日」2020年6月号で紹介されました!

 

佐藤日田路(さとう・ひたみち)、昭和28年生まれ。

平成20年、「ロマネコンテ」入会、同人(休会中)。

平成21年、「海程」入会、27年、退会。

平成24年、句会ブラン代表(休会中)。

平成29年、「海光」会員。

「亜流里」会員、現代俳句協会会員。

第一句集。

「跋」に常に独創的で奥深く、自己の内面と向き合い、感じたことを率直に表現している、とある。

 

啓蟄や仮面土偶に妊娠線

亀鳴くや眠りの浅き電子辞書

春哀し海へはみ出すチョココルネ

 

彼にとって俳句は〝俳諧と詩のせめぎ合い″にあるのだろう。(林誠司「海光」代表)

 

陽炎や妻にかすかな火の匂い

青空を動かさぬよう魞を挿す

サーカスの転校生と桜餅

踵うつくし霜柱踏めばもっと

脳味噌をざぶざぶ洗う春キャベツ

シナプスの放電青き入学子

ただ濡れているだけでよい蝌蚪の紐

色鯉の口に暗黒入りけり

春愁のどこを切っても赤と黒

名をつけて子は親となる著莪の花

勉強がきらいな僕と蝸牛

作る人いつか乗る人茄子の馬

手を追えば足を忘るる踊笛

芋の露母さん僕は元気です

心臓に手足が生えて阿波踊

穴惑いあなたが尻尾踏んでいる

懐手笑いどころを間違える

肉体は死を運ぶ舟冬の月

 

「あとがき」に、私は十代から詩を始めた、私にとって俳句の短さが心地よい、できるなら硝子の心臓が鼓動するような情感を表現したい、と言う。

(俳句アトラス 2273円+税)

 

―「好日」2020年6月号 新著紹介 執筆・片岡伊つ美―

 

新谷壯夫句集『山懐』が「残心」2020年夏号で紹介されました!

 

『山 懐』  新谷 壯夫

昭和16年、兵庫県生まれ。

昭和39年、松下電器産業(株)、平成5年よりインド・アメリカに計8年勤務。

平成18年、職場OB俳句会入会、柴田多鶴子に師事。

平成23年、俳誌「鳰の子」創刊同人。

現在、「鳰の子」同人会長、俳人協会会員、大阪俳人クラブ会員。

本句集『山懐』は作者の第一句集。

句集名の『山懐』は趣味の登山に由来して命名されたとのこと。

スケールの大きな自然詠、長い海外赴任で詠まれたその国の風土、日本各地の行事を見事に据えられたお句と句幅の広さに感服。

句集の装丁原画は奥様の作品とのあとがきを拝見し、句集『山懐』の魅力の一端を伺い知ることが出来た。

 

アンデスの山駆け下る雪解川

寝転んでアイガー仰ぐお花畑

結論を迫る御仁にまあビール

銀河濃き一万尺の小屋泊り

駆け抜くる風のかたまり競べ馬

バザールのをんな立膝蕃椒売る

豆撒を待つ輪ちりぢり縮まりぬ

(令和元年6月3日 俳句アトラス)

 

―「残心」2020年夏号 受贈句集より 執筆・西田啓子―

 

中村猛虎句集『紅の挽歌』が「雲の峰」2020年8月号で紹介されました!

 

著者は1961年生れ。

兵庫県立姫路西高等学校卒、横浜国立大学工学部卒。

2005年、句会「亜流里」設立。

2011年、風羅堂第十二世襲名。

句会「亜流里」代表。

現代俳句協会会員。

俳誌「ロマネコンテ」同人。

俳誌「俳句新空間」同人。

第一句集。

跋は三十年来の友人であり、会社の同僚でもあった林誠司「海光」代表で、二十代の頃、著者に俳句を奨め、勤務先の同年代の人たちを誘い、リーダーになるつもりで句会を始めたが、著者はほぼ全ての句会で最高点という活躍を見せた。

大胆さと繊細さが入り交じる、詩情あり、ユーモアありの多彩な作品で、俳句的垢が全くないのに、不思議と深みのある詩情を持っていたという。

著者はモノローグに癌で奥様を亡くされた経緯を句とともに述懐している。

以下、自選十二句より

 

葬りし人の布団を今日も敷く

この空の蒼さはどうだ原爆忌

缶蹴りの鬼のままにて卒業す

水撒けば人の形の終戦日

ポケットに妻の骨あり春の虹

(俳句アトラス)

 

―「雲の峰」2020年8月号 句集・著作紹介 執筆・播广義春―

 

中村猛虎句集『紅の挽歌』が「紫」2020年8月号で紹介されました!

 

そうか君も所詮歯車蟻の列  中村猛虎

 

社会に一歩出ると、自分自身の考えとは異なった事象に悩まされることが多々ある。

信頼していた人間も、人生に於ける一つの歯車でしかない。

蟻に、その無念さを託している。

しかし、私は、私の道を進むしかないとう覚悟。

(句集『紅の挽歌』・俳句アトラス刊)

 

―「紫」2020年8月号 佳什一滴 執筆・山﨑十生―

 

中村猛虎句集『紅の挽歌』が「蛮」54号で紹介されました!

発行日 令和2年5月9日

発行所 俳句アトラス

著者略歴  1961年、兵庫県生まれ。2005年、句会「亜流里」設立代表。2011年、風羅堂第十二世襲名。現代俳句協会会員。「ロマネコンテ」同人。「俳句新空間」同人。

 

余命だとおととい来やがれ新走

痙攣の指を零れる秋の砂

鏡台にウイッグ遺る暮の秋

着ぶくれて私の入る穴がない

雪ひとひらひとひら分の水となる

食パンに入れる刃の音冬はじめ

子の一歩父の一歩に春の泥

アル中で死んだ親父の部屋に蟻

殺してと螢の夜の喉仏

蛇穴に入るおじさんは立ち止まる

枯野人明日履くための靴磨く

俯きしままぶらんこの少年よ

マフラーの中であいつをやり過ごす

春の雪溶かす人体積もる人体

昔のようにブランコを大きく振れなくなった

信号機変わる音して冬の夜

ポケットに妻の骨あり春の虹

 

―「蛮」54号 句集紹介 執筆・鹿又英一―

 

中村猛虎句集『紅の挽歌』が「好日」2020年9月号で紹介されました!

 

中村猛虎(なかむら・たけとら)、本名・正行(まさゆき)。

1961年生まれ。

2005年、句会亜流里設立。

2011年、風羅堂第十二世襲名。

現在、句会亜流里代表、俳誌「ロマネコンテ」同人、俳誌「俳句新空間」同人。

現代俳句協会会員。

早逝の妻に捧ぐ第一句集。

 

さくらさくら造影剤の全身に

余命だとおととい来やがれ新走

卵巣のありし辺りの曼珠沙華

秋の虹なんと真白き診断書

遺骨より白き骨壺冬の星

葬りし人の布団を今日も敷く

早逝の残像として熱帯魚

少年の何処を切っても草いきれ

手鏡を通り抜けたる蛍の火

この空の蒼さはどうだ原爆忌

蛇衣を脱ぐ戦争に行ってくる

秋の灯に鉛筆で書く遺言状

たましいを集めて春の深海魚

三月十一日に繋がっている黒電話

缶蹴りの鬼のままにて卒業す

水撒けば人の形の終戦日

心臓の少し壊死して葛湯吹く

ポケットに妻の骨あり春の虹

 

「跋」林誠司(「海光」代表)によれば、猛虎氏は大胆さと繊細さが入り交じる、詩情ありユーモアありの多彩な作品群で、深みのある詩情を持っている。

芭蕉も「俳諧の益は俗語を正す也」(『三冊子』)と述べていて、彼の作品にはその伝統が引き継がれて、ひいては俳句の現代性を生み出している。

「あとがき」に、趣味でやっていた作詩作曲、その歌詞からイメージした作品は、句会で同僚の作句を圧倒し、とても気分がよかった、といっている。

(俳句アトラス 2,400円(税込))

 

―「好日」2020年9月号 新著紹介 執筆・片岡伊つ美―

 

成瀬喜代句集『東路』が『千草』2020年秋号で紹介されました!

 

昭和2年千葉県生まれ。

昭和57年「蘭」入会。

平成5年「蘭」同人。

著者は「蘭」の最古参の一人。

師と仰ぐ野澤節子への思いが作品に表れ、格別な詩情が溢れ出ている。

卒寿を迎え、三十七年の自分史の証となっている。

 

白鳥引く藍の深きを湖に置き

われに沿ふ師の影さくら咲きてより

時を経て思慕の深まり沙羅の花

 

成田市名古屋の、住居周囲の季節の変化が手に取る様に伝わって来る。

 

雪道を誰やら掻きてくれたらし

わが髪もしだれざくらも風の中

産土に啼く夜啼かぬ夜青葉木菟

十六夜の利根川の細身の舫ひ舟

雪来るか竹のさやぎを瑠璃越しに

水遣りて百の鉢より涼貰ふ

 千葉支部千紅会、石毛喜裕氏を悼みて

君と寄りし茶房にひとり春惜しむ

喜裕の声とも雁の声を聞く

 

夫君亡きあとの思慕の情の優しさと暖かみ。

 

声とどく距離に夫ゐる茸採り

かたはらにもう夫在らぬ掘炬燵

亡き夫の咳の聞こゆる夜半目覚

誰よりも亡夫に見せたく牡丹剪る

 

―「千種」2020年秋号 句集紹介 執筆・佐野友子―